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キャンディはワンコである

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 ミキは寒さで意識が朦朧としていた。宝石店の前でめまいがして倒れ込み、調整室と呼ばれるあの真っ白く暑い部屋で目が覚めてから、ずっと意識はこの調子でしっかりとしていない。本当に夢の中にいるようだ。しかし、身体は凍えそうな程寒い。そんな中で、あの少女を思い出していた。あれは私だ。幼い頃の私が、寒さに震え、私の両手を頬に押しつけ、あったかい、と言いながら泣いていた。今私は、あの少女そのものだ。寒くて寒くて凍えてしまいそうだ。けれど、私の頬を温めてくれる手は私の側にはない。寒さが悲しみを誘い、目から涙が溢れた。あの少女は私、寒くて泣いていた、あの少女は私・・・。帰りたがっていた、あの少女は私・・・帰りたいと言って泣いた、あの少女は私・・・私は・・・帰りたい、帰りたいのだ。
 私は帰りたかったのだ、ずっと、幼い頃から・・・。
 肩を揺さぶられて、ゆっくりと目を開けると、タケシの顔があった。



   つづく
# by kazuko9244 | 2012-05-14 20:28 | フィクション

雨降るのかな〜

雨降るのかな〜_a0162394_13581782.jpg

もう、何ヶ月も前から愛車のワイパーが物凄い音を立てていて、まわすと『ババババ〜!』とか、『グガガガゴー!』とか鳴って、道行く人がビックリして振り返ったりしていた(ーー;)

やっと、先週の金曜日にガソリンスタンドで取り替えてもらった(^○^)

でも、まだ一回もまわしてみてない。

雨が降らんのんじゃもん。

今日は降るんかな〜、ワイパー使ってみよう〜とワクワクしたけど…

もう、家に帰って来ちゃった。

このところずっと、午前中は工場、午後は家で仕事をしている。

今日も、ワイパーお預け(´・_・`)

明日は使えるかな〜。
# by kazuko9244 | 2012-05-14 13:58 | 携帯から


 店の外はタケシと藤村が来た時と同じ状態だった。まだ人々は止まったままで、まるで視界一杯の立体的な絵でも見ているようだ。ミキを担いだまま、アーケードの人々を避けながら歩いた。目線を真っ直ぐに向け、奥歯を噛み締めながらついさっきの、あの熱い部屋の事を思い出していた。揺らめく空気の向こうに見えた横たわるミキ、扉の裏側で倒れていた幼い寝顔のドクター・ロウ。彼は目を覚ましただろうか?あの調整室と呼ばれる部屋で、何が起きていたんだろう、まるで炎が揺らめく火災の建物の中へ入ったような感覚。全身が焼かれそうな温度の中で、平然と眠っていたミキ・・・。様々な思いが頭の中を流れていく。ただひたすらに歩き続けていると、何処からかタケシを呼ぶ声が聞こえた。最初はかすかに、次第にはっきりと、その声は藤村のものだった。
「タケシーー、タケシ、待ってくれよ。」
 振り向くと、藤村が駆け寄って来ていた。
「お前、大丈夫か?」
 藤村に目だけで笑って答えると、また自分の部屋を目指して歩き始めた。
「俺、車取ってくるから、待ってろよ。」
 車と聞いて、タケシはほっとした。正直なところ、かなり疲れていたので、気力だけで歩いていたようなものだったのだ。その気力も、部屋に辿り着く迄もつかどうか自身がなかった。その場で自分を支えるように仁王立ちになり、藤村を待った。
 その時、左肩で腰から折れ曲がっていたミキが動いた。だらりと垂れていた手がタケシの背中を押したのだ。Tシャツの上から、熱がじわじわと伝わって来る。
「ミキ、おい、お前、気が付いたのか?」
「降ろして・・・。」
 タケシは近くにあった電柱に右手をついた。思い出したように掌に痛みが走った。そうだ、そういえばあの時火傷をしたのだった。熱く焼けたドアノブを掴んだ時に、ジュッと音を立てた手・・・。タケシはゆっくりと腰を下げて、ミキの足を地面に着けた。すると、今まで静まり返っていた周囲が急にざわめき始めた。耳慣れた雑踏が息を吹き返した。タケシはミキの両足を左腕で抱えたまま、しばらく動けなかった。顔を上げて、辺りを見回した。確かに、止まっていた時が動き出していた。
「タケシ?」ミキがタケシの肩を小さく叩いた。
「手、離して、動けないよ。」
 ああ、そうだ、タケシは左腕をミキの足から離した。左上を見上げると、ミキが不思議そうにこちらを見ていた。
 助けることが、出来たのか。タケシはホッとして気が抜けて、その場で寝転んだ。人々がじろじろと二人を見ながら通り過ぎて行く。
「ちょっと、大丈夫?」
 ミキがタケシを起こそうと腕を引っ張った。その手は熱く、力も弱かった。そこへ、真横に止まった車がクラクションを鳴らした。タケシが顔だけ起こすと、藤村がその車の運転席から大声で叫んだ。
「おい、大丈夫か?乗れ!」
 タケシはミキの力を借りながらやっとのことで立ち上がり、一緒に車に乗り込んだ。

 
 タケシの住むアパートの前まで来ると、三人は車から降りた。蝉が耳をつんざくように鳴いている。藤村がタケシとミキに片方づつ手を貸し、階段を上がる。二階の一番奥の部屋までの通路がとても長く感じた。
「なんでこんな時に、俺の部屋は一番奥なんだよ・・・。」
「知るか!」
 藤村が二人を気遣い、支えながら、やっと部屋の前まで来ると、タケシがジーンズのポケットから鍵を取り出し、ドアを開けた。三人は傾れ込むように部屋へ入った。
 部屋は蒸し暑い熱気でムンムンしていた。タケシの部屋は縦に並んだ1DKで、玄関のドアを開けておいて、キッチンと六畳の部屋の間の戸も開けて、六畳からベランダへ続く大きな窓のまた開けると、すうっと風が通り抜ける。今日もそうやって部屋の空気を入れ替えると、玄関と窓を閉め、エアコンのスイッチを入れた。男にしてはさっぱりと片付けられた部屋で、三人は腰をおろした。一瞬、ホッとした空気が流れた後で、
「あー、麦茶、麦茶。」藤村が冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップを三つ、部屋の小さな机に置くと、向かい側に座っているミキに問いかけた。
「気分、悪くない?」
「ちょっと・・・。」ミキはぐったりとしているようだ。
「お前、熱あんだろ、横になれよ。」
 タケシがベッドを勧めると、ミキは頷き、自分から布団に入って行った。首まで薄いタオルケットを掛けると、ミキは急に震え始めた。
「寒い・・・。」
「ああ、そうか、寒気がするんだな、ちょっと待てよ、毛布出してやる。」
 押入れをゴソゴソしているタケシに、藤村が言った。
「毛布どころじゃ足りないと思うぜ。冬用の掛け布団出してやれ。」
「今は夏だぜ、寒気がするっていっても、熱の出てる人間には暑すぎるんじゃないか?」
「いいや。まだ足りない位だ。あと、エアコンを暖房にしろ。」
「このクソ暑いのに、なんで暖房なんだよ、快適な温度にして、頭だって冷やしてやらないと・・・。」
「ミキちゃんにとっては、快適じゃない。見てみろ、凄く震えてる。寒いんだよ。特別に熱が出てる訳じゃないんだ。本当に、寒がってるんだよ。」
 強く目を閉じて歯をガチガチ言わせながら震えているミキを見て、タケシは藤村に問いかけた。
「どういうことなんだ?」
「先ずは冬用布団だ。」
 藤村の言葉には断固とした自信があるようだった。タケシは急いで厚い布団を出し、ミキに掛けてやった。そして藤村の言う通りにエアコンも暖房に切り替えた。
「ストーブないか?」藤村が追い打ちを掛けるように言うと、
「ふざけてんのか?」タケシの動きが止まった。
「ふざけてない。」
「ふざけてんじゃねえかよ、人が黙って言うこと聞いてりゃ、調子に乗りやがって・・・」
「ふざけてない。彼女はそれくらい寒いんだ。」
 心に出始めていた怒りの目を摘み取るような藤村の冷静かつ自信に満ちた言葉に、タケシはそれ以上言葉を失い、じっとミキを見つめた。
「・・・ストーブ、ない。冬はエアコンだけで乗り切っちまうから。」
 ミキの歯がガチガチと音を立てる。
「そうか。」
 ミキの髪の毛が震える。
「なあ、藤村・・・。」
 震える息・・・。
「なんでこいつ、こんなに暑いのに、なんでこんなに、こんなに震えるくらい寒がってんだ?」タケシの目は見開かれ、ミキの方を見たままで藤村に問いかける。藤村は溜息を一つついて答えた。
「ミキちゃんは、あの調整室で体温を調整されつつあったんだ。ドクター・ロウは、ミキちゃんを自分の元へ連れて帰ろうと、体温の調整から始めた。俺の時は、地球っていうか、この日本に派遣される事が決まってから、様々な情報と言葉・・・ここで生活していく為に必要なことをこの頭に詰め込まれ、それから最後に体温調整だった。あの星から地球へ急に来てしまうと、寒くて凍えちまってたんじゃないかな・・・。ミキちゃんは、きっとその体温調整の途中でお前に連れ戻されたんだな。でも大丈夫だろ、死にはしないんじゃないかな。俺もこっちへ来て最初のうち、凄く寒かったけど、次第に慣れたからさ。心配すんな。」
 藤村の話は完全に信用することなど出来る筈もなかったが、全て信用出来ないと言い切れないとタケシは思っていた。実際にタケシはあの調整室へ入り、ミキを連れ出してきたのだ。右手の火傷がまた痛みを増したようだ。
 何が本当でなにが嘘なのか、何を信じて何を疑えばいいのか、タケシには解らなかった。夕方六時に周囲の全てが止まり、あの宝石店の向こうで見た事、自分の行動、全ては幻想だったと強く思えば思えないこともない。しかし、この右手の火傷、赤く腫れた掌は自分のこの目に今も映り、痛みも感じている。俺はどう考え、行動して行けばいいんだろう、そしてミキを見つめながら、こんなに震えている彼女をどうしてやることも出来ない自分が悔しくて、奥歯をぐっと噛み締めた。その時、
「か、かえ、り・・・たい・・・。」
 震える口からミキの小さな声が漏れた。
「ん?なんだ?何か言ったか?」
 タケシは耳をミキの口元に寄せた。
「かえ・・・り・・・たい・・・。」
「帰りたい?何処へだ?家か?」
 ミキの固く閉じた両方の瞼の端から涙が流れた。
 ベッドの側に藤村も寄って来て、ミキを見た。顔面は蒼白で、震えは止まらず、声は消え入りそうだ。
「ミキちゃん、おい!」
 藤村がミキの両肩を掴み、強く揺さぶった。すると固く瞑っていた瞼が緩み、震えながらゆっくりと目を開けた。ミキの瞼が半分開いた辺りから、タケシと藤村はその瞳を見て息をのんだ。丸い黒目が、うっすらと赤みがかっていたのだ。
「お前、目が!」
 タケシがミキの瞳を食い入るように見ていた。


     つづく
# by kazuko9244 | 2012-05-13 16:34 | フィクション

「今だ。」
 老人の合図でタケシは力いっぱい体重を掛けてドアを押し開けた。ひどく重く感じたすぐ後、裏側でガツン、と鈍い音がした。何だ?と一瞬裏側を見ようとしたが、ドアを開けた勢いでタケシの身体中に熱風がぶち当たってきた。左手で顔をかばい、一瞬躊躇したが、指の隙間から部屋の中央に眠るミキを発見した。部屋の中に足を踏み入れた時、タケシの全身を焼け付くような空気が包んだ。タケシは口から入る熱い空気によって息苦しさを覚えた。ミキのところまで進むのは困難かと思われたが、彼はそこで諦めなかった。熱をかき分けるように進む。ミキに近付いて行くと、後ろでドアが閉まる音がした。振り返ると人が倒れているのが目に入った。もう一度ミキの方を見て、また振り返った。あれが・・・ドクター・ロウなのか?ドアからミキまでの距離の半分まで来ていたが、タケシは引き返した。そして仰向けに倒れている人物に近寄り、見下ろした。白く美しいその人物は、ドクター・ロウなのだと直感した。しかし、目を閉じたその顔はドクターと呼ぶにはあまりにも幼いように見えた。
 老人が思い切りドアを開けろと言ったのは、こうやってロウを気絶させる為だったのだ。そしてその間にミキを連れ出す・・・。タケシはミキの方へ走り寄った。動く度に身体全体に熱い空気がまとわりつく。もしもタケシが今平常な心理状態ならばほんの一分ももたなかっただろう。その場でめまいを起こし、倒れこんでいただろう。今のタケシは平常な心理状態では決してなかった。ミキを助け出す、その強い気持ちだけが彼を突き動かしているのだ。
 タケシはミキを抱き上げようとして彼女に触れた。熱い、熱があるのかと思った。この熱のこもった部屋の中で、どれくらい眠っていたのだろう、こんなに熱くなるとは、速く連れ出さなければ危険だ、そう思う中、タケシ自身も頭がぼんやりとして来ていた。両手に力を込めた。ミキを抱き上げる。そしてドアに向かって進んだ。一歩一歩前進する足が鉛のように重い。ドアまでの距離を歩く時間がひどく長く感じられた。首まで浸かった水の中を進んで行くように、全身の筋肉を必要以上に使う。それに、ミキの体重が加わって、タケシはもうフラフラだった。しかし、諦めない、、倒れたくはない、そう強く思いながらやっとのことでドアまで辿り着いて開けようと思ったが、両手が塞がっていることに気が付き、ミキを左の肩に担ぐようにして右手を自由にした。まだ気が付かないロウを横目に、ドアノブに手を掛けた。予想もしていなかった熱を、そのドアノブは持っていて、まるで焼かれた鉄のようだ。タケシの掌の水分がジュッと音をたてた。けれど彼はノブから手を離さなかった。このままでは自分の手の皮がずるりと剥げてしまうだろう、だが、そんなことはどうでもよかった。どんな扉でも開けられる、と言った老人の言葉が頭の中で繰り返されていた。もう少しだ、この扉を開けて、ここから脱出するんだ、それだけを思う気持ちがタケシの右手に力を与えた。ぐいっとノブを押し下げ、手前に引いた。するとまたその勢いで今度は正常な夏の気温の空気が冷風となってタケシとミキを包んだ。それは入って来た時に感じた熱風の不快感とは正反対の心地よいものだった。タケシは調整室から店の奥へと繋がる一歩を踏み出し、後は一直線に店の外へ飛び出した。左肩にミキの重みを感じながらタケシは夏の温度をとても涼しく、気持ちよく身体に受けていた。


    つづく
# by kazuko9244 | 2012-05-12 19:02 | フィクション
 ミキは泣きながら目を覚ました。脈が激しく打っているのが分かる。苦しくて、胸に手を当てて静めようとしたが、なかなか静まりそうにない。深呼吸をしたりして、気持ちを落ち着かせようと努力していた。
「帰りたい・・・。」流れる涙もそのままに、もう一度その言葉を口にしてみた。瞼の奥がまた熱くなり、涙が次々と溢れてくる。
「もうすぐ帰れる。」
 突然、視界いっぱいの真っ白い天井の中に、冷やかな表情を浮かべたロウの顔が現れた。ミキはびっくりして上半身をずらしながら起き上った。
「君の居るべき場所へ、帰れる。」
 ロウの赤い瞳が、さっきよりも輝きを増したように見えた。ミキの方へ手を差し伸べる。
「手を・・・」
 ミキはその言葉に吸い寄せられるようにベッドから降り、彼に近付いた。そして手を合わせた。あまりにも自然に、引かれる力に抵抗する気持ちも不思議と起こらなかった。
 ミキは驚いた。その手は以前彼と一瞬接触した時感じた火のような暑さはなく、自分よりももう少し暖かいくらいになっていて、触れられない程ではなかったからだ。
「ほらね、だんだんとここに慣れ、君は戻りつつある。」
 信じられない、嘘だ、こんなことある訳がない。
「私はここになど慣れないわ!」
 手を離すと、ミキはロウのそばから素早く跳びのいた。
「君はこの星の住人なんだよ。その証拠に、私はもう地球の言葉など使っていない。」
 最初に会った時よりも口調が変わっていることに気が付いた。あの時は敬語だった。そしてもう一つの、はっきりと聞こえなかった言葉・・・そっちの方を今私は聞いているということなのか・・・もしもそうならば、今自分は理解していた。ミキは知らず知らずのうちに彼の言葉を理解していた。それはこの星に同調し始めたということなのだ。
「嫌!」ミキはその場にうずくまり、両手で両耳を押さえた。何も聞きたくない、見たくない、何も、何も。聞けば聞く程、見れば見る程、この星の生物に近付いて行くのなら、何も聞きたくない、見たくない・・・。
 ロウはそんなミキを見て、口の端を吊り上げた。
「今に君の瞳も赤く染まるよ、そのリングの石と同じ位にね。」
 ミキの指にはタケシから貰ったルビーが光っている。
「やめて!そんなこと、やめて!」
 もう涙が止まらなかった。止める術も知らなかった。自分はロウの言葉を理解している、理解している・・・。
 ああああ・・・混乱は頂点に達し、絶望の色の濃い悲鳴を上げながらミキは気を失った。
 ロウは足元に崩れた彼女をしばらくじっと見ていた。長い間ずっと探していた自分のパートナー。彼女と自分にしか操作出来ない、地球を救う最後の手段をインプットしてある装置。自分が今まで最善の方法と信じて来た治療方法。その研究の全てが実を結ぶ時はもうすぐだ。なのに何故か苦しむ彼女を見て、彼は複雑な心境を覚えていた。しかしそれはすぐに打ち消した。計画を実行することのみに神経を集中させようとした。
 すっと伸びた両腕はミキを抱き上げ、ベッドの上に寝かせた。そしてミキをそのままにして部屋を出ようとドアノブに手を掛けた。
 その時・・・


     つづく
# by kazuko9244 | 2012-05-11 19:59 | フィクション

キャンディ(ウェスティ)・ミルキー(ヨーキー)・とーさん・私の毎日の一部分♪


by kazuko9244