人気ブログランキング | 話題のタグを見る

キャンディはワンコである

kazuko9244.exblog.jp
ブログトップ

『時間外のルベウス』 ⑯

 ミキは泣きながら目を覚ました。脈が激しく打っているのが分かる。苦しくて、胸に手を当てて静めようとしたが、なかなか静まりそうにない。深呼吸をしたりして、気持ちを落ち着かせようと努力していた。
「帰りたい・・・。」流れる涙もそのままに、もう一度その言葉を口にしてみた。瞼の奥がまた熱くなり、涙が次々と溢れてくる。
「もうすぐ帰れる。」
 突然、視界いっぱいの真っ白い天井の中に、冷やかな表情を浮かべたロウの顔が現れた。ミキはびっくりして上半身をずらしながら起き上った。
「君の居るべき場所へ、帰れる。」
 ロウの赤い瞳が、さっきよりも輝きを増したように見えた。ミキの方へ手を差し伸べる。
「手を・・・」
 ミキはその言葉に吸い寄せられるようにベッドから降り、彼に近付いた。そして手を合わせた。あまりにも自然に、引かれる力に抵抗する気持ちも不思議と起こらなかった。
 ミキは驚いた。その手は以前彼と一瞬接触した時感じた火のような暑さはなく、自分よりももう少し暖かいくらいになっていて、触れられない程ではなかったからだ。
「ほらね、だんだんとここに慣れ、君は戻りつつある。」
 信じられない、嘘だ、こんなことある訳がない。
「私はここになど慣れないわ!」
 手を離すと、ミキはロウのそばから素早く跳びのいた。
「君はこの星の住人なんだよ。その証拠に、私はもう地球の言葉など使っていない。」
 最初に会った時よりも口調が変わっていることに気が付いた。あの時は敬語だった。そしてもう一つの、はっきりと聞こえなかった言葉・・・そっちの方を今私は聞いているということなのか・・・もしもそうならば、今自分は理解していた。ミキは知らず知らずのうちに彼の言葉を理解していた。それはこの星に同調し始めたということなのだ。
「嫌!」ミキはその場にうずくまり、両手で両耳を押さえた。何も聞きたくない、見たくない、何も、何も。聞けば聞く程、見れば見る程、この星の生物に近付いて行くのなら、何も聞きたくない、見たくない・・・。
 ロウはそんなミキを見て、口の端を吊り上げた。
「今に君の瞳も赤く染まるよ、そのリングの石と同じ位にね。」
 ミキの指にはタケシから貰ったルビーが光っている。
「やめて!そんなこと、やめて!」
 もう涙が止まらなかった。止める術も知らなかった。自分はロウの言葉を理解している、理解している・・・。
 ああああ・・・混乱は頂点に達し、絶望の色の濃い悲鳴を上げながらミキは気を失った。
 ロウは足元に崩れた彼女をしばらくじっと見ていた。長い間ずっと探していた自分のパートナー。彼女と自分にしか操作出来ない、地球を救う最後の手段をインプットしてある装置。自分が今まで最善の方法と信じて来た治療方法。その研究の全てが実を結ぶ時はもうすぐだ。なのに何故か苦しむ彼女を見て、彼は複雑な心境を覚えていた。しかしそれはすぐに打ち消した。計画を実行することのみに神経を集中させようとした。
 すっと伸びた両腕はミキを抱き上げ、ベッドの上に寝かせた。そしてミキをそのままにして部屋を出ようとドアノブに手を掛けた。
 その時・・・


     つづく
by kazuko9244 | 2012-05-11 19:59 | フィクション

キャンディ(ウェスティ)・ミルキー(ヨーキー)・とーさん・私の毎日の一部分♪


by kazuko9244